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我在中国拍照 一如既往地谢谢你

【雑記】#1「中国に住んで一年が経った。」

[中国での生活] 

 2019年、30歳を節目に転職した。勤務先は中国/香港。我ながら大胆な決断だった。会社員として特別秀でた能力もなく、自身の適性に合わない営業職をしながら好きな写真を撮っている。

≪下記駄文≫

 異国の地の生活は実にスリリングである。小金持ちの家に生まれそこそこ裕福に育った私だが、まさかこの歳で不便な生活を強いられるとは思わなんだ。人生で享受できる幸せに限りがあるとすれば、しばらくは煮えた鉛でも飲めばバランスも取れるというもの。

 中国と聞けば衛生観念と民度の低さが真っ先浮かぶどうしようもない偽物大国のイメージだが、大方その通りかもしれない。外食をすれば腹を壊し、ネットショッピングをすれば当然のように不良品が届く。商品が届くだけマシだ。日本人という理由で良くも悪くも差別されることもある。

 生活の愚痴よりまず仕事に馴染むことが大事で。会社側も私のような使い物にならない社員でも一応は歓迎しなければならないようで、初勤務後スナックへ案内して頂いた。店内には餅のようなママが鎮座しており、片言の日本語で出迎えてくれた。景気良く上物のウイスキーで乾杯させてもらったが、明らかに偽物の味だった。

ママが気を利かせてヘルプの若い子を集めてくれたが、隣に美人が居ようがこの小便をガソリンで割ったような酒が美味しくなることはない。お酒の正体が分からないまま一応酔うことはできた。互いを理解する前に、この環境に15年身を置いた先輩方を無条件に尊敬した。

「〆に何か入れましょう」と言う上司に従い次の店へ移動することになった。

粗削りだが一応「日本食屋さん」は存在するらしい。私の心に微かな陽が差し込んだ。中国でも日本の食文化を味わえるのだ。こんなに嬉しいことは無い。

店に着き店内を眺めると、懸賞金3000万ベリーのルフィのポスターが目に入った。

情報が遅れていることが料理の腕と紐づくわけではないが、妙に心がざわつくのだ。

 

3000万「小さいことは気にすんなって(ニィ)」

 

 メニューを見るなり、ビジュアルは美味しそうな日本食ばかりが並ぶ。上司は鉄火巻きを、私はザル蕎麦を注文した。上司より金額を上回るざるそば。「失礼しました」と己の不躾を謝った。

談笑もそこそこにリラックスした雰囲気の中、各自の前に食事が運ばれた。特に飾り気のない質素な佇まいが味への期待を膨らませるのは和食ならではだろう。実力に自信があれば余計なごまかしはいらないのだ。私は勢いよく蕎麦をツユに漬けズズっとすすった。

ショッパイ。

 

ツユが醤油原液だった。口の中の醤油を醤油と認めるまで時間を要したが、味覚はすぐに「キッコーマンです」と判断した。

ぼうっと醤油の深い闇色に焦点が合わず、薬味のつもりで入れたであろうニンジンが浮かんでいた。

「塩分濃度の高い液体は浮力が増すんだっけ」と、理科の授業を思い出した。

 上司も過去に醤油を飲まされたそうで、クレームも入れたのでさすがに改善済と思っていたらしい。醤油を水で薄めて何とか人間が摂取できる濃度に薄めて食べた。

 書けば文句は尽きないが、あっという間に無事一年を過ごすことができた。コロナ渦中につき日本への帰国の目処は立たないが、海外生活を楽しめるよう鈍感に生きるしかない。

 

 福岡に思いを馳せても、飛行機が出てないんじゃ帰国のしようがない。中国で悶々とする私の休日は専らゲームだ。後輩のヒロちゃんが私のゲーム相手となってくれている。
 ヒロちゃんの職歴は実体のない組織がほとんどだった。
そんな彼が「介護職で働こうと思います」と口にしたときは驚いたし大賛成した。
「いつか自分のおばあちゃんのお世話をしたい」という健気な動機がヒロちゃんらしいじゃないかと思った。 

さらに驚きなのが、すんなりと面接に受かったことだった。

 

「刺青、OKでした」とのこと。


 初出勤を終えた彼の感想は「みんな良い人過ぎでした。こんなに優しく指導されたことありません。」と、ひどく感激していた。
しかし、遅番早番のシフトをこなし、日々業務をこなす中でヒロちゃんの心は穏やかではなかった。

 

「みんな腹の中で何考えとるのか見えなくて、気持ち悪いんですよね。」

 

 ニコニコしてる人も裏では同僚の陰口叩くという現場の、言わば「社会の日常」を知って思ったことらしい。

「みんな自分がまともだと思っているんでしょうかね」って言うんだ。


陰口は「私たちはまともだよね?」と確認し合う作業なのかな。

ヒロちゃんの職場では『ベテランに対して意見できない』という共通認識を維持することで連帯感を生んでいるらしい。
私から言わせれば珍しいことではないが、これを変だと憤りを感じれるのがヒロちゃんの純なところで、直情的な獣の部分はまだ未熟なとこかもしれない。

 

施設向け 】身体拘束廃止研修(新入社員研修)【 入社時必須 】 - YouTube
介護業界には『身体拘束』というものがあるようで、
過度な身体拘束は虐待とも捉えられ、ニュースのトピックとして目にすることがある。
彼の職場ではベテランスタッフがそれに値する拘束を利用者に強いている実態があるそうで、我慢ならず彼はベテランに

「これじゃ刑務所となんらかわらんやないですか」と意見したらしい。
ベテランスタッフもそれを真摯に受け止めたのか、「確かにその通りやね、気が付かなかった」と言う。

その話は施設内に広がったそうで、他スタッフもどうやらベテランの身体拘束に疑問を感じていたらしい。
おかしいと思いつつ黙認していたスタッフにヒロちゃんはまた苛立つ。
「三木さんだったらどうしますか?」と問われた。
自分をフォローしてくれる人間がいるなら、会議の場で報告してみんなで決まり事をつくるかな。
とぼんやりした回答。


ヒロちゃんは新人なんだから何でも質問してさ、ベテランの業務姿勢を見直すように誘導することはできるかもしれんね。「何も知らない新人」って立場は武器になるけん。

「この拘束って白線超えてないですよね?」「苦しそうですけど、どこから虐待の域なんでしょうか」・・・とか。


実力があれば通る意見も増えるし、まだまだ磨かれてない部分がたくさんあるわけなので、これからが楽しみやね。

しかし、陰口ってのはどこでもあるもので。そこばかり睨んでても仕方ないし、そういう“潔癖症”のようなところは自分で折り合いをつけないといけんね。

がんばれや、ヒロちゃん。